コーチン執筆
| | 今、ふと君の香りがした。
いや、厳格に言うと君の香りでなく、君の部屋の香りがした。
それは、今、僕が君の部屋に向かっているからだ。
車をおりて、君の部屋に向かう。車をおりた瞬間、もう、君の部屋の香りがした。
マンションのエレベーターに乗る。そこには、もう君の部屋の香りが満ちている。
でも、ほかの部屋に行く男性は、そこに住む別の女性の香りをかいでいるのだ。
エレベーターを降りる。
僕は、君の部屋の前で、チャィムを押さないで、過ごす時間が好きだ。
すぐ会って、抱きしめたいという気持ちと戦いながら、ぜいたくな時間を味わう。
さっきと、違う香りがしてきた。「そうか」。僕は、気づいた。
さっきまで僕がかいでいた香りは、君のマンションの玄関の香りだった。
いま、してきた香りは、君のリビングルームの香りだ。僕は、深呼吸した。
また、別の香りがした。これは、バスルームの香りだ。君は、部屋ごとに
香りをデザインしている。
僕の、心は、僕の身体を離れて、もう君のマンションの部屋に入り込んでいるのだ。
だから、君のマンションのいろんな香りがするのだ。
また、別の香りがしてきた。ベッドルームの香りだ。
どうやら、僕の心は、ベッドルームに入ったらしい。
僕は、チャィムを押そうとした。その瞬間、ドアがあいた。君は、ずっと
ドアの内側に立って、僕がチャィムを押すのを待っていたのだ。
「あなたが車を降りたときから、あなたの香りがしていたの」と。
君の心が、君の身体を離れて、僕を迎えに来ていた。
フェロモン香水

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